髄膜炎は、免疫系の未熟な乳幼児(特に生後4ヶ月~5歳)に好発し、診断と初期治療の遅れが重篤な後遺症や死につながることもある緊急性の高い病気です。子どもが「 頭痛い 」と訴えてきたとき、髄膜炎の可能性を念頭におく必要があります。
子どもの「頭痛い」で考えるべき髄膜炎の可能性
髄膜炎とは
髄膜炎は、脳を覆う膜である髄膜に炎症が起きる疾患で、細菌性のものと無菌性(ウイルスや真菌などが原因)のものに大別されます。日本では年間約1,500人が発症するとされており、特に乳幼児に好発します。
近年は起炎菌のワクチンが普及したために小児の髄膜炎は減少傾向にあります。しかしながら、感音性難聴、運動麻痺、知的障害といった神経系の後遺症や死に至る可能性があり、注意が必要な感染症であることに変わりはありません。
ここでは、無菌性よりも重症で頻度の高い細菌性髄膜炎について述べます。
小児の髄膜炎の症状、経過
細菌性髄膜炎は、発熱、項部硬直、意識障害が三徴としてよく知られています。しかし小児では、これらの典型的な症状が揃うことは少なく、非特異的な症状が組み合わさって現れることが多いのです。また、年齢が低いほど症状が軽微で、典型的なものが現れにくいという特徴があります。
最も頻度が高い症状は発熱で、頭痛、嘔吐もまた高頻度に現れます。髄膜炎における頭痛は、髄膜の炎症により知覚神経が刺激されることにより起こります。これらに加えて意識状態の変化、痙攣などの症状が現れた場合、髄膜炎を想定する必要があります。
また、乳幼児は「頭痛い」と訴えることが出来ないので、「何となく元気がない」といった非特異的徴候や易刺激性(すぐに不機嫌になる)などの症状をよく観察する必要があります。
診断に至るまでの経過には、以下に挙げる3つのタイプがあります。
- 非特異的な症状(発熱、不活発、易刺激性、嘔吐など)が数日間先行する型
- 1日ほどで特異的な症状が出現する型
- 電撃的な経過をとり、発症後急速に症状が悪化する型
一つ目に挙げたタイプの頻度が最も高く、三つ目のタイプは入院前後に痙攣、昏睡に至るケースが多いとされています。
細菌性髄膜炎の検査と診断
細菌性髄膜炎に似た症状を呈する他の病気には、ウイスル性の髄膜炎、熱性痙攣、熱せん妄、急性脳炎などがあります。
細菌性髄膜炎は初期治療がその予後を左右するために、緊急対応を要する疾患です。そのため、特異的な症状がなく先に挙げたような他の疾患が疑われる場合でも、細菌性髄膜炎との鑑別のため積極的に検査をすることが重要です。
髄膜炎の確定診断は腰椎穿刺による髄液検査で行われます。髄液の初圧や髄液中の細胞数とその分画、糖、タンパク量といった髄液所見に加え、髄液のグラム染色で得られる所見から診断を行います。グラム染色は簡易で迅速に結果が得られる検査で、原因菌の推定が出来ます。
早期治療がカギを握る
細菌性髄膜炎では早期に治療を始めることが重要なので、血液培養などで起炎菌の名前が確定するまで待つのではなく、ある程度予想をして治療を始めます。
細菌性髄膜炎の起炎菌は、疫学的に子どもの年齢によって分布が異なります。治療の際には子どもの年齢と髄液検査の結果から起炎菌を想定し、抗菌薬を選択します。
起炎菌が判明したら、薬剤感受性を考慮して更に抗菌薬を選択、投与します。
予防のために
細菌性髄膜炎の予防として、ワクチンの接種が挙げられます。インフルエンザ菌b型(Hib)ワクチンと結合型13価肺炎球菌ワクチン(PCV13)があり、これらは現在、定期接種のワクチンになっています。
ワクチンの導入と接種率の向上により、これらの菌が引き起こす髄膜炎を含む感染症の発生率は低下しています。両方とも生後2ヶ月からの接種開始と生後1歳での追加接種が必要なワクチンです。
適切なワクチン接種をして、少しでも子どもたちの髄膜炎罹患のリスクを下げることが大切です。
まとめ
子どもの「頭痛い」で考えるべき髄膜炎の可能性
髄膜炎とは
小児の髄膜炎の症状、経過
細菌性髄膜炎の検査と診断
早期治療がカギを握る
予防のために