ライ症候群 はインフルエンザ脳症の一種であり、主に子どもに見られます。かつて「らい病」と呼ばれた「ハンセン病」と混同されることがありますが、まったく異なった病気です。重症の場合は予後不良の病気であり、ある種の解熱剤によって引き起こされることがわかっています。
解熱剤が引き起こすライ症候群
たくさんのタイプがあるインフルエンザ脳症
インフルエンザをはじめ、はしかや水ぼうそうなど、子供はさまざまなウイルスに感染します。通常、これらのウイルスに感染しても、数日の間に治り、後遺症が残ることもほとんどありません。しかし、まれに脳に合併症を生じることがあります。そのひとつがインフルエンザ脳症です。
インフルエンザに感染しても、簡単に脳症になるわけではありませんが、毎年100名程度が発症しています。
インフルエンザ脳症は、いくつかのタイプに分類されています。「古典的ライ症候群」「ライ様症候群」「出血性ショック脳症に類似した型」「急性壊死性脳炎」「けいれん重積型」「その他」の6つです。このうち「古典的ライ症候群」が、ライ症候群のことです。
ライ症候群の症状とは
ライ症候群は、脂肪肝を合併する急性脳症であり、幼児から学童に多く見られます。B型インフルエンザや水ぼうそうにかかったときに発症することが多いと言われています。
インフルエンザなどを発症した後、熱が下がるころに、急に意識障害やけいれんといった症状が現れます。血液検査を行うと、肝臓に関する数値が悪く、高アンモニア血症や、乳幼児の場合は低血糖を起こしていることもあります。
予後の悪い病気ですが、日本では1980年代以降、発生数は減少し、近年ではとても稀になっています。ライ症候群の治療は、点滴による薬剤の投与です。脳が腫れている場合は減圧剤、低血糖の場合はブドウ糖など、必要に応じたものが投与されます。
ライ症候群になるメカニズム
インフルエンザなどのウイルスに感染すると、白血球を中心とした免疫機能が働き始めます。このとき白血球や細胞は連絡を取り合う手段として、炎症性サイトカインという物質を使います。
ところが、ある状況下では、この炎症性サイトカインが過剰に分泌されたり、あるいは受け取る細胞が過剰に反応したりして、身体に悪影響を及ぼすことがあります。
ライ症候群では、この炎症性サイトカインによって、肝臓の働きが抑えられてしまいます。そのため、本来なら肝臓で分解されるべき有毒物質が分解されなくなってしまうのです。そして、この有毒物質の影響によって、脳の細胞内に水分が溜まり脳が腫れてしまいます。
解熱剤がライ症候群を引き起こす
インフルエンザや水ぼうそうにかかった子供が、アスピリンを含んだ解熱剤を服用すると、ライ症候群を発症する危険性が高くなることが知られています。
アスピリンは体内で代謝されて、サリチル酸に変わります。このサリチル酸が、肝細胞のミトコンドリアの機能を抑制して、ライ症候群を発症すると考えられています。
そのため日本では、15歳未満の子供がインフルエンザや水ぼうそうにかかったとき、アスピリン、アスピリン・アスコルビン酸、アスピリン・ダイアルミネート、サリチル酸ナトリウム、サリチルアミド、エテンザミド、ジクロフェナクナトリウムを投与してはいけないことになっています。
また、メフェナム酸やジクロフェナクナトリウムは、インフルエンザ脳症を重症化させることが明らかになったため、インフルエンザの発熱に対しては使用してはいけないことになっています。
もし、家庭にこれらの成分を含んだ薬がある場合は、決して子供に使わないようにしてください。現在、インフルエンザの解熱剤としては、主にアセトアミノフェンが用いられています。
ライ症候群とライ様症候群
ライ症候群と似たような症状を起こすものに、ライ様症候群があります。これは先天性の代謝異常症であり、インフルエンザや水ぼうそうとの関連は強くなく、アスピリンとの因果関係もほとんど認められていません。
ライ症候群が5歳以上の子供に多く見られるのに対し、ライ様症候群は2歳以下の乳幼児が多く発症します。また、ライ症候群のように熱が下がってからではなく、下がらないうちに発症するのも特徴の一つです。日本では、ライ症候群よりもライ様症候群のほうが、症例数が多いとされています。
いずれにしても、インフルエンザなどに感染したときは、インフルエンザ脳症を発症する危険性があることを、常に頭に入れておきましょう。
まとめ
解熱剤が引き起こすライ症候群
たくさんのタイプがあるインフルエンザ脳症
ライ症候群の症状とは
ライ症候群になるメカニズム
解熱剤がライ症候群を引き起こす
ライ症候群とライ様症候群