血管腫は、皮膚や皮膚下にできる血管のできもののことで、赤いアザのように見える病気です。さまざまな種類がありますが、ほとんどが生後間もない新生児に現れます。
なぜ新生児に 血管腫 が発現するのか、その 原因 について見ていきましょう。
血管腫の原因はどこまで明らかになったのか
原因が不明な血管腫
血管腫は大きく、血管性腫瘍と血管奇形に分類されます。2013年に『血管腫・血管奇形診療ガイドライン』が策定され、これまで症状が似ているためにひとくくりに扱われてきた両者が明確に分類されることになりました。
血管性腫瘍のなかで最も多いのは、乳児血管腫です。乳児血管腫は生後すぐに発症しますが、多くは6~7歳ごろには自然に消退します。
一方、血管奇形は自然消退することはありません。成長とともに大きくなることが多く、見た目の問題だけでなく、疼痛や潰瘍、成長異常、機能障害を引き起こすこともあります。
こうした血管性腫瘍や血管奇形は、比較的頻度の低い病気で、国内外で詳しい実態調査は行われておらず、診断や治療法も確立していないと言われています。また、ほとんどが原因不明で、根本的な治療法のない病気です。
さまざまな説がある乳児血管腫の原因
子供、なかでも乳児が発症する腫瘍のうち、最も多く見られるのが乳児血管腫です。これは、血管内皮細胞が異常に増殖して腫瘍になったものです。生後3カ月~1年くらいかけて、徐々に大きく隆起していきます。見た目が赤くデコボコしていることから、苺状血管腫と呼ばれています。
乳児血管腫は、人種によって発生頻度に差があると言われています。白人の1歳児には、10ー12%に乳児血管腫が存在しますが、日本人の場合はわずか0.8%にしか見られません。また発症率の男女比を見てみると、1:3の割合で女性に多いことがわかっています。
乳児血管腫が発生する原因は、現在のところ不明ですが、さまざまな説が提唱されています。
例えば、胎内にいるときに、血管系の細胞に分化するはずだった中胚葉系前駆細胞が、異常に分化したか、あるいは遅れて分化したという発生学的異常を原因とする説や、血管内皮細胞の増殖関連因子が遺伝子レベルにおいて変異したことを原因とする説など、多様な説がありますが、確定しているものはありません。
静脈奇形にはTie2受容体が関わっている
血管奇形は発生する血管によって症状が異なり、静脈奇形、動静脈奇形、毛細血管奇形、リンパ管奇形に分類されています。
このうち、静脈奇形は、血管奇形のなかでは最も頻度が高いもので、皮下や筋肉内などに複数の静脈が絡まったような塊ができる病気です。塊のなかがスポンジのような構造になっているので、海綿状血管腫とも呼ばれています。
皮膚の下にできた乳児血管腫(苺状血管腫)と症状が似ているために、見分けるのが難しいと言われています。
静脈奇形の発症率の男女比は、1:1~2で、女性のほうが多い傾向にあります。発生原因は不明ですが、奇形血管においてTie2受容体の変異が見つかっています。
Tie2受容体は血管の形成・安定に必要とされるもので、血管の壁細胞と内皮細胞の接着に重要な役割を担っていると考えられています。
RASA1遺伝子が関連している動静脈奇形
毛細血管を介さずに、動脈が静脈に血管が直接つながった血管奇形を動静脈奇形と言います。動静脈奇形は完治が困難で、予後不良の病気です。発症率に、男女差は見られません。
原因は不明ですが、RASA1遺伝子に変異が生じると動静脈奇形を発症する可能性が高くなることがわかっています。RASA1関連疾患では、顔や手足に、直径1~2cmの小さな毛細血管奇形がたくさん発生します。
そして、約30%の患者に皮膚や筋肉、脳などに動静脈奇形が生じると言われています。なかには、患肢肥大を合併するバークス・ウエーバー症候群が見られることもあります。
原因がはっきりしない毛細血管奇形
毛細血管奇形は、毛細血管の増加と拡張を特徴とする病気であり、最も一般的なものはポートワイン母斑と呼ばれるものです。出生時から見られる、境界のはっきりした赤あざで、大きさはさまざまです。自然に消退することはなく、年齢とともに大きくなったり、色が濃くなったりします。
ポートワイン母斑は新生児の0.3~0.5%に見られ、男女間に差はないとされています。発生原因は不明です。
このように、血管性腫瘍・血管奇形のほとんどは、まだまだ原因がはっきりしません。しかし、ガイドラインが策定されて疾患が体系化されたことによって、これから効果的な診療が進んでいくことが期待されています。
まとめ
血管腫の原因はどこまで明らかになったのか
原因が不明な血管腫
さまざまな説がある乳児血管腫の原因
静脈奇形にはTie2受容体が関わっている
RASA1遺伝子が関連している動静脈奇形
原因がはっきりしない毛細血管奇形