血管腫 とは、いわば血管の「できもの」のことです。皮膚にできることが多いため、「赤あざ」と呼ばれることもあります。さまざまな種類がある血管腫ですが、2013年に診療ガイドラインが策定されたことによって、診断や治療が変わろうとしています。
ガイドラインによって変わろうとしている血管腫の診療
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血管腫は大きく2つに分類される
血管のできものにはさまざまな種類がありますが、血管に腫瘍ができる「血管腫」と血管に奇形が生じる「血管奇形」の大きく2つに分けることができます。これまで日本では、慣用的に両方をまとめて「血管腫」と呼んできました。
しかし、血管腫・血管奇形診療の国際学会が提唱しているISSVA分類では、血管腫と血管奇形が別の疾患として扱われていたため、2013年に「難治性血管腫・血管奇形についての調査研究班」が日本形成外科学会、IVR学会と協力して作成した『血管腫・血管奇形診療ガイドライン』では、国際標準になりつつあったISSVA分類を取り入れ、ひとくくりにされていた血管腫と血管奇形を、「血管性腫瘍」と「血管奇形」の2つに明確に分類することにしたのです。
血管性腫瘍は、血管の細胞が増殖して腫瘍になるもので、さらに乳児血管腫、先天性血管腫などに分類されます。また血管奇形は、奇形が生じる血管ごとに分類され、静脈奇形、動静脈奇形、毛細血管奇形、リンパ管奇形と細分化されています。
血管性腫瘍のほとんどは乳児血管腫
血管性腫瘍のうち、子供に最もよく現れるのが乳児血管腫です。乳児血管腫は、これまで苺状血管腫として扱われてきました。
血管は管状の組織で、2層構造になっています。外側を血管壁、内側を血管内皮細胞と呼びます。乳児血管腫は、このうち血管内皮細胞が増殖して良性の腫瘍となる病気です。その名の通り、乳児に見られる病気で、出生後数日から1カ月以内に出現します。
はじめは赤い斑点が皮膚の表面にできるのですが、やがて大きく盛り上がってきます。この血管腫は鮮やかな赤色をして凹凸があり、苺のように見えることから、苺状血管腫と呼ばれてきました。
発生する部位は頭頸部が60%、手足が15%、身体が25%と、頭や首に発生することが多いとされています。血管性腫瘍は発現後、1年以内に急速に増大しますが、その後5~7歳までに、90%以上が自然に消退します。
血管奇形は妊娠4~10週に発症すると言われている
血管奇形は妊娠4~10週の末梢血管系形成期に、血管に異常が生じることによって発症すると言われています。そして、どの血管に奇形が現れるかによって症状が異なります。
静脈奇形は静脈に奇形が生じたもので、血管奇形のなかでは、最も頻度の高いものです。従来は海綿状血管腫、静脈性血管腫、筋肉内血管腫、滑膜血管腫と分類されていましたが、ガイドラインではひとくくりにまとめられました。
このうち海綿状血管腫は、皮膚の下にできた血管性腫瘍(苺状血管腫)と似ているため、判別するのが難しいとされています。
症状の重い動静脈奇形
動静脈奇形は、これまで動静脈血管腫として扱われてきたものです。通常、血管は動脈から毛細血管を介して静脈へとつながっています。
しかし、動静脈奇形では、動脈が静脈に直接つながっています。先天的病変ですので、出生時に発症を認めることが多いですが、なかには成人になってから発症することもまれではありません。
時間とともに病状が進行するのが通常で、合併症を伴うこともあります。時には生命を脅かすこともあるため、早い時期に治療する必要があります。しかし難治性で、完治は困難なことが多く、症状のコントロールが治療の目的になります。
自然に消えることのない毛細血管奇形
毛細血管奇形は、毛細血管のレベルで異常が見られる病気であり、皮膚や粘膜の毛細血管が異常に増殖するものです。従来の分類では、単純性血管腫と呼ばれていて、ポートワイン母斑や毛細血管拡張症、被角血管腫などがあります。
最も一般的なポートワイン母斑は、出生時から存在する平らな赤色斑で、境目がはっきりとしているのが特徴です。大きさはさまざまであり、顔や身体によく現れます。自然に消えることはなく、成長とともに大きくなったり、濃くなったりします。
水疱がたくさんできるリンパ管奇形
リンパ管奇形は、これまでリンパ管腫と呼ばれてきた、リンパ管の形成不全です。胎内にいるときに、未熟なリンパ組織がリンパ管に結合できずに、そのまま孤立して腫瘍になったと考えられています。
リンパ管腫の多くは、首や腋、手足、頬粘膜に、数mm大の小さな水疱が現れる限局性リンパ管腫です。水疱は散らばってできる場合と集まってできる場合があり、時に出血して血疱になることもあります。
リンパ管腫には、その他にも、顔面や舌、陰部に好発する海綿状リンパ管腫や、頭部に好発する嚢腫状リンパ管腫があります。
このように診療ガイドラインによって、これまでひとくくりに扱われてきた血管腫が体系化され、効果的・効率的な診療指針が提示されました。今後、血管腫、血管奇形の治療が進んでいくことが期待されています。
まとめ
ガイドラインによって変わろうとしている血管腫の診療
血管腫は大きく2つに分類される
血管性腫瘍のほとんどは乳児血管腫
血管奇形は妊娠4~10週に発症すると言われている
症状の重い動静脈奇形
自然に消えることのない毛細血管奇形
水疱がたくさんできるリンパ管奇形