ほとんどの新生児は、生後3日ごろから黄疸が出現します。これは生理的黄疸と呼ばれ、特に心配するものではありません。しかし、なかには放置できない黄疸が現れることがあります。その一つが、 核黄疸 と呼ばれるものです。
確実に防がなければならない核黄疸
脳組織が黄染される核黄疸
黄疸とは、ビリルビンという物質が、何らかの原因で血液中に過剰に増加し、皮膚や粘膜といった組織に沈着して黄色く染まる状態をいいます。黄染は、眼球結膜、いわゆる白目の部分にわかりやすく現れます。
核黄疸とは、そのビリルビンが、大脳基底核、視床下核、海馬傍回をはじめとする脳の組織に沈着するものです。大脳基底「核」が黄染することから、核黄疸と呼ばれています。
ビリルビンがこれらの脳組織に沈着すると、脳細胞ミトコンドリアにおける電子伝達系を破壊してしまいます。その結果、中枢神経障害が症状として現れます。
核黄疸が起こるメカニズム
体内のビリルビンは、古くなった赤血球が破壊されることによって生じます。
赤血球の寿命は約120日であり、老化した赤血球は、脾臓や肝臓などにおいて破壊され、鉄分などが回収されます。この鉄分の回収の過程において、赤血球中のヘモグロビンが分解され、最終的にビリルビン(間接ビリルビン)になります。
間接ビリルビンは脂溶性のため、血液中では血漿たんぱくの一つであるアルブミンと結合して存在しています。しかし、アルブミンの量が少なくなると、間接ビリルビンは結合できず、単独で血液中を流れるようになります。これを遊離ビリルビンといいます。
脳には、血液脳関門という、血液中に含まれる有害な物質が脳に侵入するのを防ぐ機構があります。通常なら脳に侵入することは不可能ですが、遊離ビリルビンは、この血液脳関門を突破して、脳組織に沈着してしまいます。これが核黄疸で、ビリルビン脳症ともいいます。
新生児は核黄疸を起こしやすい
生後2~3日すると、多くの新生児に黄疸が見られるようになります。これは生理的黄疸と呼ばれるもので、ビリルビン産生の亢進やビリルビン代謝の未熟などから、一時的に血液中の間接ビリルビンが増加するために生じます。
このとき、生まれたばかりの新生児は、アルブミンの量が少ないため、遊離ビリルビン量も増加すると考えられます。加えて新生児は血液脳関門も未熟なため、核黄疸を起こしやすくなっています。
さらに血液脳関門は、低血糖や低酸素血症、感染症などを起こすと、働きが弱まることがわかっていることから、低出生体重児では核黄疸を起こす危険性がさらに高くなるとされています。
また、溶血性疾患にかかった場合も、血中のビリルビン量が増加するため、核黄疸を起こしやすくなるとされています。
先天的な代謝異常による核黄疸
極めてまれな症例ですが、先天的な代謝異常で間接ビリルビンが増加するケースがあります。通常、間接ビリルビンは、肝臓において酵素によって水溶性の直接ビリルビンに代謝されます。
ところが、先天的に間接ビリルビンを直接ビリルビンに代謝する酵素が欠如していると、間接ビリルビンが増加してしまうのです。
その一つが、クリグラー・ナジャー症候群と呼ばれるものです。特にクリグラー・ナジャー症候群I型は、生後2日目ころに黄疸が出現し、核黄疸を引き起こします。予後は、痙性麻痺や筋強直を来し不良です。
核黄疸はI期の段階で発見することが重要
核黄疸の症状は、進行に応じてI期からIV期まで分類されています。
I期では、吸啜反射(口に触れた物に吸い付く反射)やモロー反射(手を広げ、抱きつこうとする反射)などが低下し、嗜眠(眠ったような状態になること)が見られます。
II期では、後弓反張(弓のようにのけぞった姿勢)、四肢の硬直、落陽現象(黒目を下にして白目をむいたような状態)などが認められます。
III期は、II期の症状が弱まったり、なくなったりして、無症状に見える時期です。
IV期ではアテトーゼ型の脳性小児麻痺や難聴などの後遺症が明らかになります。
核黄疸は、II期以降は治療法が存在しないため、I期の段階で発見して、交換輸血などの治療を行うことが重要です。
現在では、新生児黄疸の管理は徹底されており、II期以降に進行することはほとんどありませんが、注意を怠らず、確実に防ぐことが求められる病気です。
まとめ
確実に防がなければならない核黄疸
脳組織が黄染される核黄疸
核黄疸が起こるメカニズム
新生児は核黄疸を起こしやすい
先天的な代謝異常による核黄疸
核黄疸はI期の段階で発見することが重要