血管腫とは、血管にできた腫瘍や血管の奇形のことをいいます。さまざまな種類があり、多くは皮膚や皮膚の下に発生しますが、なかには肝臓にできるものもあります。 肝臓 にできる 血管腫 は良性の腫瘍で、大きな問題はないとされていますが、まれに合併症を起こすことがあり、注意が必要です。
合併症を招くと恐ろしい肝臓の血管腫
- 目次 -
どちらも血管腫と呼ばれてきた血管腫と血管奇形
血管には、動脈、静脈、毛細血管があり、それぞれ異なった性質を持っています。しかし、いずれの血管も基本的な構造は同じで、壁は2層に分かれています。外側の層は血管壁、内側の層は血管内皮と呼ばれています。
血管腫は、このうち血管内皮の細胞が増殖し、腫瘍になったもののことです。また、血管に異常が生じ、血管が複雑に絡み合った状態になったり、毛細血管が異常に増殖したりと、血管の奇形が現れることがあります。これを、血管奇形といいます。
かつては、血管腫、血管奇形のどちらともを、慣用的に血管腫と呼んでいました。しかし近年では、国際標準に合わせ、別の疾患として取り扱おうという動きがあります。
肝臓にできることもある血管腫
血管腫や血管奇形は、皮膚や皮膚直下にできることが多いのですが、まれに血管の多い肝臓にも発生することがあります。それが肝血管腫です。肝血管腫の多くは、海綿状血管腫だといわれています。
海綿状血管腫とは血管奇形のひとつで、複数の血管が絡み合って大きな固まりになったもので、内部がスポンジ状の構造をしています。
肝血管腫は良性の腫瘍で、症状が現れないのが特徴です。本人にはまったく自覚症状がなく、健康診断の際、超音波検査などで指摘され、驚く人が多くいます。
新生児と幼児・学童で異なる肝腫瘍の傾向
子供に生じる肝臓の腫瘍は、約6割が悪性だといわれています。残り4割は良性腫瘍ということになりますが、その大部分が肝血管腫です。そして、成人では海綿状血管腫が多く見られるのに対し、子供の場合は血管内皮腫が多く認められます。
また新生児に限って見ると、肝腫瘍で最も多いのは悪性腫瘍ではなく肝血管腫になります。新生児の場合、出生してから肝血管腫を発症するのではなく、生まれつき持っていることがほとんどです。
なぜ肝血管腫を発症するのか、その原因ははっきりとわかっておらず、さまざまな説が提唱されています。なかでも、肝血管腫に女性患者が多いことや各種のエビデンスから、女性ホルモンが影響しているのではないかということがいわれています。
特に新生児は、胎内にいるときに母親の女性ホルモンの影響を受けるために、肝血管腫が発症するのではないかと考えられています。新生児肝血管腫は良性腫瘍であり、症状が出ることもなく、生後6カ月以降で自然に消退することが多いとされています。
ほとんど心配のない新生児の肝血管腫ですが、なかには肝血管腫が大きくなり、合併症を招くことがあります。
心不全を合併する新生児・乳児巨大肝血管腫
新生児・乳児巨大肝血管腫は、肝臓内に単体で60mm以上の血管腫ができるか、あるいは血管腫が同時に複数発生するものです。
通常の肝血管腫が無症状であるのに対し、肝巨大血管腫は患児の身体が小さく、機能も未熟なのにかかわらず、大きな肝血管腫ができるために、他の臓器に悪影響を及ぼし症状が現れます。
症状としては、肝腫大や肝機能障害、呼吸異常、循環障害、腎不全、甲状腺機能低下症といったものが認められます。
特に問題視されているのが、心不全を合併するケースがあることです。なぜ心不全を発症するのかは十分に解明されていませんが、大きな血管腫に血液が奪われることによって、他の臓器に必要な血液が回らなくなるためではないかと考えられています。
心不全を合併した場合、無治療では9割以上の死亡率だといわれています。
恐ろしい合併症であるカサバッハ・メリット症候群
血管腫は、未熟でもろい組織のため、内部で出血を起こしやすくなります。すると、その出血を抑えるために凝固作用が働き、血管腫内部で血小板が大量に消費されます。そのため、体中で血小板が不足する事態に陥り、全身のあちこちで出血しやすくなります。
さらに、血管腫内で固まった血小板が血液に乗って体内を巡り、他の臓器で血管を詰まらせるなど、血栓性の臓器症状が起こります。
こうした出血と血栓が同時に起こることを播種性血管内凝固(DIC)と呼びますが、特に血管腫に伴って生じる播種性血管内凝固をカサバッハ・メリット症候群といいます。
カサバッハ・メリット症候群は、自然に消失することは期待できないため、治療が必要です。肝血管腫に対しては、放射線治療やステロイド治療、外科手術などが行われます。同時に播種性血管内凝固に対しては、ヘパリン投与やFOY点滴静注、血小板輸血などを行います。
いずれにせよ、肝血管腫が見つかった場合、カサバッハ・メリット症候群を合併しないように定期的に診察を受ける必要があります。
まとめ
合併症を招くと恐ろしい肝臓の血管腫
どちらも血管腫と呼ばれてきた血管腫と血管奇形
肝臓にできることもある血管腫
新生児と幼児・学童で異なる肝腫瘍の傾向
心不全を合併する新生児・乳児巨大肝血管腫
恐ろしい合併症であるカサバッハ・メリット症候群